第7回 牧野宗永さん(チベット密教修行者)(前編)
大学で仏教を学んだあと、「生きた仏教に触れたい」という思いからネパールに渡られ、チベット仏教の貴重な教えを学ばれた牧野宗永さん。今回はインタビューを2回に分けて、修行時代のお話やThe Blessing Card を通して行われるセッションのお話などを聞かせていただきました。
チベット密教修行者 牧野宗永さん
愛知県出身。京都佛教大学卒業後、さらに研さんを積むべくネパールのカトマンドゥへ。 日本とチベットの掛け橋であった故ケツン・サンポ・リンポチェに師事。チベット仏教ニンマ派の高僧らよりさまざまな教えを伝授される。足かけ10年を超える修行後、日本へ帰国。仏教を学ぶことで培われた審美眼から仏教画に造詣が深く、現在はギャラリーヒマラヤンアートを設立。アマナマナにてThe Blessing Cardを用いたセッション「Terma Time」を開催。
簡単な言葉だけど、生きた言葉たち。
・アマナマナとの最初の出会いを教えてください。
僕の友人がアマナマナを紹介してくださり、何か面白いことができないかと引き合わせていただいたのがきっかけです。
・アマナマナのHPをご覧になられて、どんな印象をお持ちになられましたか?
日本にこういう場所があるんだ、面白いなと思いました。 日本では、チベットのものを持ってきて、チベットの色そのままで提案しているところが多いじゃないですか。 チベットという文化のにおいを残しながら、今の日本、とくに都会の人たちに受け入れてもらえるようアレンジしている、とてもスタイリッシュだなと思いました。 スタイリッシュで、よく考えられているな、と。
・そのとき気になったアイテムなどはありましたか?
そうですね、僕は仏教を学んでいる立場から、「高僧とのコラボレーションカード」というThe Blessing Cardに、最初から興味を持っていました。 とても面白いな、と。
・実際にThe Blessing Cardを手に取られていかがでしたか?
そうですね、書かれてある言葉はとても日常的で、シンプルで分かりやすい言葉ですよね。修行中にいつも先生に言われてきた言葉を思いだします。 どれだけ難しい仏教の哲学や、仏教にまつわるものを勉強したとしても、日々、日常の中でそれを活かせなかったら意味がない、とおっしゃるんです。
仏教を実践し、日々の生活にそういった仏教の思いを浸しながら生きている人たちから生まれた言葉は、簡単な言葉であっても、その奥に含まれている深いメッセージがあるんですよね。
ぱっと見たときに、とても厚みのある印象でした。簡単な言葉だけど、チベット仏教、チベット文化が長年育んできた土台を、日常の生活に活かしながら生きている人たちの、生きた言葉である、そんな風に感じました。
・ありがとうございます。お客様からは、「シンプルだけど、ときどきドキっとするような言葉が書いてある」というお声がよく届きます。
そうだと思います。 本来、チベット仏教は体系的に学んでいくものなんですね。1があったら2があって、2から3、そんなふうに順序立てて関係性を結びながら学んでいくのですが、その流れですと、少し飽きてくる部分もあるんですね。
けれども、こんなふうにカードにして、順序不同にすることで、その時その時、学ぶ必要があるメッセージが、ぱっと出てくる・・The Blessing Cardはとても、気付きの入り口になると思います。そこからまた学びを広げ、深めることができますから。
同じシンプルな言葉でも、受け手が変わればまた意味が変わってきますから、それを仏教の哲学的な言葉として学ぶこともできますし、とても面白いと思います。 シンプルな言葉が、いくつもの層のように意味を含んでいて、その意味を見つめていけるカードです。その時の自分に合った心もちで、言葉を受け入れたり、深く考えたり、また違った意味でとらえてみたり。仏教の哲学的な言葉として興味を持って学びを深めたりもできますね。
・The Blessing Cardのように、ランダムに言葉を引く・・というようなものは、伝統的な仏教の学びの場にありますか?
僕が知るチベット仏教には、そういったランダムに言葉を引いて・・というようなものはないですね。でも、ランダムにカードを引く、意識しないで選ぶということは、無意識の領域で感じていることを言葉にしたり形にしたりする、という行為だと思うのです。 なのでそういう面においても、とても面白いツールだと感じています。
自分の心の奥底では、どこかで気付いているはずだけれど、なかなか表面にはあがってこないようなことを、The Blessing Cardの言葉が伝えてくれる役目もあると思うのですよね。 だから多くの人たちが、その時にあったカードが出てきてびっくりするんだと思います。
焦らなくても、到達できる。
・54枚のカードの中に、心に残る一枚などはありますか?
そうですね、どのカードも、目の前で語りかけてくるように思うので、どれもそのとき一番心に響くのですね。その中で1枚となると、今ここで引いたカードが、今日の僕にとって大切な言葉なんだと思います。では一枚引いてみます。
「 あせらずに、一歩ずつ前進すればいいのです 」
(笑)
うん、この言葉は本当にこの通り。これは仏教を学ぶ姿勢なんですよね。
たとえば、僕の先生のお話なのですが、修行するときに、「何々を得たい」と思うのではなく、とりあえず師であるラマがこうしなさい、と言われたことをその都度その都度それだけをやればよい、とおっしゃるんですね。
たとえば、ヤクを見よと。 ヤクは草を食むときに、10mも20mも先の草を見て、「あそこまで食べてやろう」などと思って食べていないだろう、とおっしゃる。 今食べているものから、目が移ったものを、ちょっとずつちょっとずつ食べている。
修行もそれと同じで、ちょっとずつちょっとずつやっていけば、いずれは目的の場所に到達する。今やっていることをないがしろにして、先のことにとりつかれていてもしょうがない。
だから、この今引いたカードにかかれてある、
「 あせらずに、一歩ずつ前進すればいいのです 」
この意味の言葉をよく先生はお話になります。 そして、自分の先生を見ていて、僕もその通りだなと思うのです。 先生は、びっくりするくらいのボリュームのあるお経の講義を始めるんですよ。 すごいボリュームで、それが何冊もあるひとつのお経です。
初日の講義は、本当に1ページ進むか進まないか。こんな調子ですべて終わるのだろうか・・と心配になるんですね。でも先生は、高齢にもかかわらず1日も休まず、その講義を続けられる。すると気が付けば、半年後にはあんなにあったお経をすべて学び終えていたりするのです。
先生には、「終わらせよう」というような意気込みはないのですが、毎日、決まった時間にちょっとずつやって、しっかり終わらせる。 その先生のお姿を見て、僕たち弟子は「やっぱりそうなんだよな」「一歩ずつでもやっていけば終わるもんなんだな」と感じるんです。
けれど、今の人たちは、あせってしまうんですね。 そこに到達しようと頑張ってしまう。けれど、到達したとしても、自分が思い描いていたような場所には到達していないのですね。 そのちょっと違う場所に到達したら、また次に何かがでてきてしまうので、結局は「一歩ずつ」しかないのです。今やっていることしかないのです。 もちろん「どういう方向で」「どういう動機で」やるのかを始めにしっかり意識する必要はありますが。
少しでも、共有していきたい。
・そんな、牧野さんの心にも響いたThe Blessing Card。そのThe Blessing Cardを使って、当ギャラリーにて「テルマタイム」というセッションがスタートしました。牧野さんが、テルマタイムの中でThe Blessing Cardを使って参加者に伝えたいことは?
The Blessing Cardには、カードを引いた人の中にある潜在的な感情や、うまく言葉に表現できない思いなどを、気付かせてくれる力が秘められているように思います。
「私はこんなこと思っていたんだ」と新たな自分を発見することもあれば、 「そうそう、それが言いたかったのよ」と自分の立ち位置や方向性を再確認できることもあるでしょう。そういった自分の心に正直に向き合っていけるきっかけを、テルマタイムでサポートできればと考えています。
・また、テルマタイムに関心をもたれている方、参加してみようかと検討されている方にメッセージがありましたらお願いします。
チベット仏教のお話だから難しそう、とは思わずに、ぜひ気楽なお気持ちでいらしてください。何か悩みをお持ちの方もそうでない方も、その場でひくカードから伝わる「言葉のチカラ」に新しい感覚を覚えてくださるかもしれません。 この不思議な感覚とともに、私がこれまで学んできたことや経験してきたことを少しでもお伝えして、明日からのヒントにしてもらえれば幸いです。 多くの方と出会い、そして言葉を分かち合えることを楽しみにしています。
後半は、牧野さんのチベット修行時代のお話です。
<<後半を読む>>
◆インタビュー前半を終えて
長くチベット僧院にいらっしゃったとは思えないほど、とてもオシャレな牧野さん。けれどもひとたび仏教のお話になると、こんこんと湧き出る清水のように、学ばれたことを分かち合ってくださいます。柔らかな物腰で熱心に語ってくださるお姿に、真摯にチベット仏教と向き合っておられるのが良く伝わってまいります。 「今という積み重ねを大切にする」という姿勢に、たくさんの気付きを頂きました。 牧野さんの修行時代のお話などは、後編にご案内させていただきます。
By アマナマナ・スタッフ
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